Act:022

「でもよ、お前には精霊界<あっち>でやる事があるだろう。何しに来た」
 先程とは打って変わった物言いにセイルは内心苦笑していたが、顔には微塵も出さなかった。
「噂を聞いてな……」
「噂?」
 フィクルは何も知らないらしく、訝し気に小首を傾げた。
「人間界で死者が蘇がえったと」
 瞬間、フィクルの表情が強張った。
「お前、まだ……! いいか! 死者を蘇らせるなんてのは――」
「禁忌中の禁忌だ」
 フィクルが言い終わる前に、セイルは言葉を引き取った。フィクルの顔は未だ強張ったままだ。
「安心しろ、あわよくばなどとは……考えていない」
 間を作ってしまったのが些か説得力に欠けるものの、今現在のセイルには死者を蘇らせようという思いはない。
「なら、どうして――」
 言ってからフィクルはセイルの言いたい事に気付いたようだった。
 死者を操れる人物。そしてセイルが異様なまでに執着する人物。
「あいつなのか?」
「わからない。だが、可能性はある」
 フィクルの喉が鳴るのが聞こえた。
「それに、例え今回の件にあいつが関わっていなくとも、あそこは踏み込んではいけない領域だ。人間が踏み入ろうというなら、私はそれを止めるだけだ」
 それを聞いたフィクルは、少しばかり強張った表情のまま苦笑した。
「そりゃあ、とんだお人よしだな」
 セイルの脳裏にどこぞの青年の顔がちらと浮かぶ。
「禁忌だと知りつつ見てみぬ振りをする程、今の私は人間を嫌ってはいない」
 これは移ったなと自嘲気味に呟くセイルにフィクルは首を傾げた。