Act:015
ディンとラグナは同じ年頃という事もあって、よく一緒に遊んでいた。ディンが八歳の時に軍人だった彼の両親が戦争で死んでからは、ラグナとその家族は彼の家族も同然だった。
そんな彼等の道が別れたのは三年前――ラグナが十五歳、ディンが十六歳の時の冬。ディンが王都の軍に入隊し、それきり連絡は途絶えた。
「……そして半年前、内戦で戦死したと王都から連絡が入りました」
ラグナはそこまでを一気に語った。二度と戻ってこない日々に今更浸りたくないのだろう。その気持ちはセイルにもよくわかる。
「それが嘘だという可能性は?」
「ないと思います。ちゃんとこの目で確かめましたから」
セイルが小さく詫びを入れると、ラグナも小さく「いえ」とだけ答えた。葉の揺れる音が聞こえる程の沈黙が訪れた後、ラグナが沈黙を破る。
「次はあなたが話して下さい。ディンと一緒にいた女性と、彼女にあなたが追われていた理由を」
「良いだろう」
最初は話すつもりなどなく、ラグナから情報を聞き出したら去るつもりでいた。だが、セイルをその気にさせたのは彼の目だった。こいつは話さなければセイルが観念するまで追ってくる。そう思わせるほど彼は真剣な目をしていた。
人間界で死者が蘇る――そんな噂を聞いたのは、二週間前の事だった。
精霊界の中心地に建つ王宮――アズラ宮は宮殿自体が兵士の宿舎となっており、数多くの兵士が暮らしている。
夜明けも近い頃、セイルは朝の鍛練を終えて自室に戻る途中だった。廊下では夜勤の兵士達が職務もそこそこに世間話にせいを出している。
(近頃たるみ過ぎだな)
ここ数年、精霊界は争いもなく平和だった。勿論それは表面的な話で、水面下では面倒な事になっている。しかし、それを知っているのはセイルを含めた上層部の者だけである。
「なあなあ、お前知ってるか?」
どうせくだらない噂話でもしてるのだろうと思っていたセイルの耳に入って来たのは、思いもよらない噂だった。
「最近、人間界で死者が蘇るんだとさ」
「そんな馬鹿な話があるかよ」
「本当だって。人間界<むこう>に行ってたミヅキ様が帰って来たのはそれを伝えるためだって話だぜ」
その瞬間、身体に電撃が走ったようだった。セイルには心当たりがある。死者を蘇らせる――正確には死者を操る事の出来る者。その存在を思い出すだけで嫌な汗が吹き出し、震えが止まらなくなる。
セイルは動揺をなんとか抑えながら歩み寄り、兵士の肩を掴んだ。
「その話詳しく聞かせろ」
その日の朝議にセイルの姿はなかった。