Act:014
新たに感じた気配はほとんど剥き出しだった。本人としては隠しているつもりだろうが、戦いに慣れた者からすれば丸わかりだ。
「何か言い残した事でもあるのか?」
セイルの声に反応して背後の茂みが動く。動揺すら隠せないらしい。
「気付いてたんですね」
ラグナは肩に乗っている葉を払い落としながら茂みから出て来た。追って来た事に驚きはしない。もし来るとしたらこの辺りで会うだろうとは予想していたし、言いたい事が何であるかは大方わかっている。
「これはお返しします」
まず一つ目。セイルが小屋を出る時に置いて行った小さな布袋。
「それは世話になった礼と詫びの印だ。村を直すには金が必要だろう」
袋の中身は宝石と人間界の通貨である。セイルはこちらの物価には詳しくないが、小さな村一つ建て直せるくらいの額が入っている筈だ。全てセイルが以前人間界にいた時に稼いだ物である。
「別にお礼が欲しくて介抱したんじゃありません」
「村を壊したんだ。けじめくらいつけさせてもらう。いらぬなら捨てれば良い」
セイルは金に頓着する性分ではない。精霊族は人間族程に食料を必要としないし、セイルは旅先に余計な物は持たない主義だった。それにラグナに渡した物が手持ちの全てではない。
そして二つ目。
「……あの男の事だな?」
ラグナは無言で頷いた。ラグナがディンと呼んだ男。
「奴は何者だ?」
ラグナがあの男を知っているのなら、聞き出せる情報は聞いておかなくてはならない。
「親友です」
「そうは見えなかったな」
セイルは間髪入れずに否定した。ラグナは嘘をついていないのだろうが、セイルにはあれが親友の再会だとは見えなかった。
「嘘をついてどうするんです? なら、セイルさんはあいつとはどのような?」
「悪いが奴とは初対面だ。教えてやれる事はない」
ラグナは疑いの目を向けていたが、セイルとて嘘をつく理由はない。結局、互いに収穫は何もなかった。
セイルがこれ以上用はないと判断して立ち去ろうとした時、ラグナが口を開いた。
「……死者は生き返ると思いますか?」
セイルは我が耳を疑った。死者が生き返る――そんな事を聞けば皆、鼻で笑い飛ばすだろう。
「ラグナ、貴様何か知っているのか!?」
しかし、セイルは違った。あまりの衝撃に、ついラグナを“貴様”と呼んでしまった事はこの際どうでも良いくらいに、とにかく話を聞きたかった。
「あ、あの。セイルさんは“弔いの丘”に行きましたよね?」
セイルの剣幕に戸惑いつつも、ラグナは話しを続ける。
「その時、墓は見ましたか?」
墓と言われて丘の頂上の光景を思い出す。セイルが見たのは確か青年の墓だ。
「若い男の墓なら」
「その墓に刻まれた名前を覚えていますか?」
必死に記憶を復元するが、何気なく見た墓の主の名前など覚えている筈がない。
「あの墓はディラルドのものです」
ディンとディラルド――その瞬間、セイルの中で二つの記憶が繋がろうとして
いた。
「そう、あれはディンの墓です」
「奴は死人だというのか?」
頷いたラグナの目は真剣そのものだった。
「詳しく聞かせて貰えるだろうか?」
すぐ側に――今まで気付かなかったが、確かにすぐ側に答えはいた。